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西郷どん #ドラマ妄想(幾島さん)

私は、私を、許そう。
私の、在り方を許そう。
そして、全てを、ありのままに、受け入れよう。



「のぉ幾島」
「はっ」

私は、とっさに、深く、平伏する。より恐れ入って見えるように。

「いつもにも増しての、薩摩殿の心遣い、かたじけなく思いまするぞぉ。のぉ歌橋」

そうおっしゃられる方こそ、公方さまの、御生母にあらせられる、本寿院さま。
その横には、公方さまの乳母であらせられる、歌橋さま。

この大奥に至るまで、様々なツテを辿り、十分な下調べを、重ねていた。

噂では、元服まで御存命すら危ぶまれた公方さまを、無事育て上げられた歌橋さまの方が、公方さまの御信任大層厚く、御生母である本寿院さまより、大奥での権勢を誇っておられるという話であった。

が、私の見たところ、本寿院さまは、歌橋さまに対するに、一抹の遠慮も見受けられず、それどころか歌橋さまの方が一歩引いておられる。

これは、当初の心づもりを、少し変えねばならぬ。人の噂は当てにならぬものだ。

やはり、なんとしてでも、心を動かさねばならぬのは、本寿院さまの方。それによって、大奥そのものを動かし、篤姫さまの将軍家お輿入れを、是が非でも成し遂げねばならぬ。それが、私に課せられたお役目。

「我が殿にも、本日の首尾を、申し上げねば。さぞや、お喜びになると存じます」

声はやや高く、踊るような流暢さで。私は、己が声の使いどころを熟知している。



自分が、他人と違なると感じ始めたのは、いつ頃であるのか?。
私の声は、人の心を、情動を、揺さぶりやすいらしい。

己が幼い頃、大人から語り聞かされた昔話があった。
少し成長し、姉ぶって、目下の幼子に、己がそうしてもらったように、今度は立場を変え、語り聞かせてやった。世間でもよくあることに思う。

相手の幼子たちが、やたら興奮していたことを、覚えている。楽しい話には大いに笑い、悲しき話には大いに泣く。己が幼子であった頃は、これほど大仰であったろうかと、不思議に思うほどだった。まるで情をためておく袋の底が、破け散るような激しさで、彼らは私の語る物語にのめりこみ、真偽の区別もおぼつかなくなるふうがあった。

きっと、私の語り口が優れてるのであろうと、深く考えずにいた。幼子たちは、私のことを好ましく思ってくれているからこそ、さほどに喜んでくれるのであろう、と。

三人、死んだ。顛末を先に言ってしまえば、まぁそういうことだ。

一人は、私の話を真に受け、宝玉のなる木を探しに、山深くへ分け入り、山犬に喰われて死んだ。
一人は、私の話を真に受け、竜宮城を探しに、川へ飛び込み、溺れ死んだ。
一人は、私の話を真に受け、空を飛ぼうと、羽衣に見立てたらしい布を身体に巻いて、崖から飛び降り死んだ。



「さて幾島。このような、豪華な献上の品々をもうては、知らん顔をできませぬな」

のってきた…と、私は感じた。献上品をもって、恩に着せたわけではない。情を引き出したのだ。憐憫の情だ。
これだけの献上品を捧げ、にもかかわらず、恐れ敬い、これでもかとへりくだり、高貴な方と接する喜びに、打ち震えている…ようにみせている。それのしぐさに哀れを感じ、同情してくれているのだ。

他人が語れば、見え見えの世辞であろうと、私が語れば、それは真実になる。

「さすがは本寿院さま、お見通しでございましたか。本寿院さま、当家の篤姫さまには、一度、京の近衛家に、御養女に入る話、既に決まっております」

大奥が、篤姫さまの輿入れを渋っている理由の一つに、篤姫さま生来の身分の低さがあること、あらかじめ、調べがついている。
篤姫さまは、島津家といっても、分家の姫君。大藩と言えど、外様の、そのまた分家の小娘に過ぎぬ。

大奥は気位の高いところ。気位の他に何一つ寄る辺ない人たち。このように空虚な連中を、都合よく利用するのも気が引けるが、これも主命だ。

我が殿の望みこそ、我が望み。与えられた役目を全うする以外、私がここにきた理由もないのだから。

そもそも、両親に見限られたのは、随分と早かったように思う。真実のところは、何も察してはいなかっただろう。
ただ、気味悪がられた。私の身近で、三人もの人死にが、立て続けに出たのだ。致し方ないのであろう。不吉な娘として、近隣に悪名が響き渡った。

もう、普通の女として幸せに生きること、永劫ないであろうと、子供ながらも覚悟を決めた。幼子三人を、死に追いやった罪の意識もあった。

奉公に出された。私の悪名が、まだ届いてない場所へ。それが、島津の御本家であったことは、両親のせめてもの思いやりだったのかもしれない。



「我らの後押しが欲しいということじゃな」

「左様でございます。篤姫さまは江戸に参られて二年、諸芸百般、御習得も怠りなく、もはやどこへ出しても恥ずかしゅうない姫君にございます。何卒、お力添えを」

言霊。私の言葉には、魂が宿る。

私は、人を、当人に意識すらさせず、自在に操ることができた。私は島津本家に仕えてすぐ、頭角を現した。
目をかけられた私には、特別な教育が施された。諸芸百般、あらゆる習い事が許された。
特に、礼儀作法には重点を置かれた。そこには一定の型がある。あらかじめ決められた所作を、決まった手順で、なぞってゆく。古来より試行錯誤の末、洗練された人の所作。様式美の集大成と言える。それは、人の感情を和らげる、人の感情に訴えかける類の技法だ。

室町由来の、由緒正しい礼儀作法を身に着けることは、私がこれまで経験と工夫を重ねて編み出した言霊の技法と、組み合わせることで、より人の感情を動かす術として昇華された。

その結果、京の五摂家の一つ、近衛家へ輿入れされる郁姫さまの上臈として、随行するまでに出世した。



「幾島。私は母として、公方さまの妻となる者に、最も望むことがある。我が子を一人にして欲しくはない」

笑止と思ってしまうのは、致し方のないこと。子を思う母など、私には覚えがない。
が、それが本心であると、私には分かる。

私は声で…音をもって相手を探る。人を操ると同様に、音で相手の本心を見抜く。相手の声に限らず、衣擦れや足音、およそ人の発する音の全てから、心情を察する。
妖怪サトリのごとく、相手の思う内容までは読み取れぬものの、言葉の真偽を見抜く程度なら造作もない。
私を、見た目で誤魔化すなどアリエヌのだ。

そんな私の才が重宝されたのだろう。郁姫さまがお亡くなりあそばされても後も、私は近衛家に仕え続けた。近衛家は公家の重鎮。腹の内の探り合いは、どうしてもついて回る。といっても、実際は大した出来事もなかった。

私のすべき日常のほとんどは、郁姫さまの菩提を弔うことであり、そんな穏やかな日々がずっと続くものだと思っていた。

それがまさか、五年とたたず、新たなお役目…我が全知全能を絞り尽くしてなお、届くかどうかわからぬ、重大なお役目が与えられるとは、思いもよらぬことだった。



「本寿院さま。篤姫さまの最も優れたるところは、お体が丈夫なこと、その上、恐ろしく運がお強い。遠き薩摩にお生まれになった姫君が、将軍家輿入れの話を頂戴いたすのも、運の強さに他ならぬこと。この幾島がお約束いたします。強き篤姫さまなれば、末永く、公方さまに添い遂げられるに違いありませぬ」

ここだ、と私は確信した。この角度で、 本寿院さまのお心を、押す。今、この瞬間なら、押し切れる。

人の寿命など、誰にも分からぬ。そのような理屈、誰でも知っていることだ。

後押しが欲しいのだ。公方さまに、のち添えが必要なのは、決まったること。されど、誰にするかは決められずにいる。

恐ろしいのだ。二人も続けさまに死なせてしまったことが。更には、次も死なせてしまうかもしれないことが。そうなってはもう、呪われているとしか思えなくなる。そう信じ込んでしまうであろう、自分が怖いのだ。

心が揺れ動いている。迷う心が、形を成して目に見えるようだ。

その不安にこそ、付け入る。力強い、本寿院さまの心に突き刺さる、支えとなるべき声をもってして。



かくして、篤姫さまの輿入れは、本決まりとなった。ようやくだった。ぎりぎりだった。我ながら、生中なことではなかったが、それでも辿り着けた。

私一人の力では、到底無理だったに相違ない。私の操った道具たちも、よく働いた。

特に、西郷という男。実に操りやすい。いや、あの男は、全て知った上で、自らゴロゴロ転がされているふしがある。他人に利用されることを喜ぶなど、並の神経ではなかろう。身体の大きい男だが、器も相当に大きい。また私と別のやり口で、人の心を動かす術に長けている。あれはよほどの男だ。殿が格別目をかけるのも、無理からぬこと。

無論、私自身、殿に使われる道具に過ぎない。道具に徹すればこそ、私はこれまで生かされてきた。人は、私の機能だけを求めた。人として、求められたことは一度もない。
無条件で愛された記憶は、もはや幼い日の、遠い昔だ。両親でさえ、私を憎んだ。
役目柄、人に頼りにされることは多かったが、それはそれ以外の価値が、私にないからだ。

子供の頃はつらかったが、その現実を受け入れてしまえば、気が楽になった。冷静に己を顧みることができ、かえって物事を遠くまで、見通せるようになった。

私は、私が生きることを、許すことにした。

道具として生きるしかないのなら、道具なりの楽しみというものもあるだろう。割り切ってしまえばどうということもない。生きるということは、それだけで楽しいものだ。見える景色も変わった。

私はたしかに、他人を道具として扱う。が、自分の道具となってくれた人々に対し、感謝もするし、多少の負い目があるものの、後々まで身の立つようにしてやりたいとも思っている。そのように優しくなったのは、老いた証拠なのかもしれないが。

あとは、一橋慶喜さまを次の将軍に押し奉ること。それで、私と篤姫さまの役目は終わる。その後はどうしようか。篤姫さまと日がな一日、すごろくでもして遊び暮らそうか。今は、それだけが楽しみだ。


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