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ピアノの森 #14「懸ける想い」

 悲劇など何処にでもある。
 死んだ母親の胎内から、生まれ落ちた『バクダン』と呼ばれた少年の言葉である。

 100元で、パン・ハオという、金で買えないステータスを渇望する金持ちに買われ、ピアノの英才教育を受ける中で出会ったのが、阿字野壮介という悲劇のピアニスト。
 その音に共感し、同調した少年は、やがてパン・ウェイという世界で唯一、阿字野壮介の音楽を継承するピアニストに成長した。

 いやー、パン・ウェイさんの不幸設定はカイ君の更に上を行くからなー。
 しかも皮肉にも、自分のコピーになってしまうことを嫌った阿字野先生本人により、阿字野壮介の弟子でありながら阿字野壮介と異なるピアノ演奏を叩き込まれたカイ君と違って、面識もないまま阿字野壮介のピアノの後継者となったパン・ウェイさん。
 意識するなって方が無理なんだけど、その無理を普通にやってしまうのがカイ君なわけで。やっぱ天才は違うねー。

 一方、対抗意識にとらわれたままなのが、雨宮君と、雨宮君の父。
 特に雨宮君の父は、癒しのピアニストとして今現在、世界で称賛される偉大なピアニスト。だというのに、阿字野壮介という天才の幻影から、未だに逃れられないでいる。
 周囲から見れば、阿字野先生のピアノは興奮剤で、雨宮父のピアノは鎮静剤。互いの性質は真逆で優劣をつける対象とはなりえない。
 だというのに、息子の代まで執着し、代理戦争じみた争いを許しているというのは、親子揃って相変わらず業が深いねー。

 息子の争いは、息子の意思によるものなのは明らかなのだけど、ちゃっかり便乗している観があるのは否めないかなー。
 自分の代では、気持ちに決着をつけられなかった阿字野先生のピアノへの憧れと劣等感。勝つにせよ負けるにせよ、その気持ちの落としどころを息子の代の争いで付けようとしてるのかねー。


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Author:きのさかな
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五臓六腑を刻まれて
 一歩も引かぬ“侠客立ち”

とうに命は枯れ果てて
 されど倒れぬ“侠客立ち”

とうに命は枯れ果てて
 男一代“侠客立ち”     花山弥吉